台湾Popの新星 – 韋禮安 WeiBird

このところ、台湾のポップスがめちゃめちゃ熱い。兎に角出るもの出る曲の全てがハイクオリティーであり、何よりソングライターがぞろぞろひしめいている辺りは日本の同じ業界では既に追い付けないくらい、粒が揃っている。
 

中でも私のイチオシのシンガーソングライターがこの人、韋禮安(William Wei Li An)
1987年3月5日、台湾・台中生まれの彼の生み出す上品でソフトリーなメロディー、歌詞、そしてサウンドはさながら極上のラム酒でも飲む時のようにマイルドで優しい。
 

新作Don’t Show Itは全編英語で歌唱され、黙って聴いていたら中国系のシンガーとはおそらく誰も気づかないだろう。
(※古き良き、ブリティッシュ・ロックバンド プリファブ・スプラウトに通ずるそこはかとなくノスタルジックな曲調は、リスナーに時代錯誤を引き起こさせる。)
 

 

カメラの焦点が熱帯魚が泳ぐ水槽に当てられたまま、その向こう側に一人の女性があてどもなくやり過ごしている独特の映像は、ここ最近の韋禮安の配信する幾つかの動画に共通している、ある種の「人に対する美しい拒絶」を匂わせる。
 

ひょっとすると韋禮安と言う人は心のどこかに、永遠に消すことの出来ない痛みを隠し持っているのかもしれない。
この評論を書いている私自身がそうであるように、人は誰にも視えない場所にひっそりと傷を隠し持つ生き物だ。その人が笑顔であればある程その痛みは繊細で脆くて、絶対に誰の手も触れさせまいと必死でそれを隠そうとするものかもしれない。
 

 

韋禮安のニューアルバムI’M MORE SOBER WHEN I’M DRUNKには9曲の珠玉の作品が収録されているが、中でも私が好きなのはこの作品Leave This Bedだ。
 
この作品のPVに、人物は一人も現れない。焦点の合わない一台の車に少しずつカメラがズームしたり離れたりしながら、楽曲の要所要所に車だけがその輪郭を露わにして行く。
その車に接近しているのは人なのか、人の心なのか或いは魂か、それとも地縛霊のような何物なのか‥、PVの最後まで明かされない謎に悶々とさせられるからついに何度も視てしまう不思議なPVに、私は完全に心を鷲づかみにされたようだ。
 
ロックオン!
 

 

彼の「掴みどころのない世界観」に魅入られながら、過去アルバムSounds of My Lifeも聴いてみるが、此方も秀作である。
印象としてはどこか、遠い過去に捨てられたままの廃屋に迷い込んだままその中で一つの生を振り返るような、本当に不思議なサウンドが広がって行く。
 

中でもM-11這樣好嗎 How About This』が個人的にはドストライクで、何度も何度もこの作品を聴いている。
この作品にはPVも存在するが、私個人的には映像を通さずに音楽だけを聴いていたいと思った。あえて映像化しない方が、作品の持つ曖昧なところに想像力がかきたてられ、解釈にむしろ深みを与えてくれるような気がしたからだ。
 

 
 
どの作品にも通じているがこの人 韋禮安の歌い方がどこか、マイケル・ジャクソンを想起させる。
特にロングトーンの中盤から後半の縮れ感のある細かいビブラートがランダムなのに美しく、彼の心の彼方にそっと息を潜めている「傷跡」を包み込む水の紋様のようで、胸が張り裂けそうになる‥。
 

さてこの記事の最後に、韋禮安が2021年にリリースしたニューアルバムI’M MORE SOBER WHEN I’M DRUNKのアルバムリンクを貼っておきたい。
そこがイングランドなのかチャイナタウンなのか‥、或いはそれ以外なのかが分からない迷宮の世界がアルバム全体に広がって行く。

是非、音のマトリックスとしてご堪能頂きたい🎧