シルビア・ペレス・クルスは、現代カタルーニャ音楽を代表する歌姫だ。職歴欄には「40才の歌手・女優」と書かれてある。
どういうわけか私は歌手が歌う歌よりも、女優が描く音楽の世界が昔から好きだった。
女優と言う生き物はどのような世界に居る場合に於いても、どこか一歩引いた俯瞰目線を持っているように思う。その「一歩引いた感覚」が歌手にありがちな強引でエゴイスティックな表現からうんと遠ざかり、「いつでもこの世界から私は逃げ出せるのよ‥」とでも言うような、ポジティブな意味合いでの「引き」の表現がきっと私にとっては心地好いのだろう。
そんな彼女 Silvia Pérez Cruz(シルビア・ペレス・クルス)が2023年3月3日に配信した動画 『Nombrar es imposible』 がとても美しい。

『Nombrar es imposible』 のMVは、ハバナ(キューバの首都)を舞台に繰り広げられる。
忙(せわ)しさとは一線を画したこの動画の中の時の流れが、兎に角心地好い。少しノスタルジックにカラグレされた動画の彼方には今ではない、どこか過去の思い出の中にしか存在しないような海や街の風景が広がって行く。
それらはもうどんなに頑張ってもあがいても手に入れることの叶わない、遠い時代の夢を見ているように美しく居心地が好いのだ。
シルビアはスペイン出身の歌手だが、よく聴いているとどこかフォルクローレとかアルゼンチン・タンゴ等のエッセンスを感じてならない。
この曲では分からないが彼女の過去作品を捲ってみると、特にフォルクローレ色の強さを感じる幾つかの作品に出会うことが出来る。
音楽は、極力先入観を捨てて聴くことが望ましい。
例えばこの歌手 シルビア・ペレス・クルス の生い立ち等を含む人物情報を先に頭に叩き込んでから彼女の作品に接すれば、どうしても先に文字で読んだことが脳裏をもたげるから彼女の作品はリスナーの中で頑固に「スペイン音楽」と言うフィルターの執念に、結局のところ振り回され続けるに違いない。
私は彼女の生い立ちについての情報を、この記事を書き始めるまでは一切読まずにいた。勿論シルビアの音楽に触れるのは今日が初めてだったので、それが出来たのかもしれない。
だとしてもどこどこの国の何と言うジャンルを演る人‥ 等と言う先入観が時として、音楽を正確に把握する上では仇となることが多いわけで、私は音楽評論家として知識よりも感覚を重視しながら評論する数少ない音楽評論家の一人で在りたいので、したり顔で知識人ぶらないことに決めた上で、今日に至る。
今私は上に掲載した彼女の過去アルバム『Farsa』を聴きながらこの記事を執筆しているが、M-12『intemparie』はどこか美しい表現に凄まじさが加わって激しい。
バックは何と、フレームドラムだけ。そこに彼女のヴォーカルが淡々と乗って行く。
不意に、メソポタミア文明時代の神殿が目の前に広がって来て、時間の感覚が喪失して行く‥。
歌詞に興味のある人の為に、Linkを貼っておくので、是非和訳にトライしてみては如何だろうか‥。
神話のような内容の歌詞が私に、メソポタミア文明時代の過去世の記憶をインプレッションした可能性を捨て切れない。
https://genius.com/Silvia-perez-cruz-intemperie-lyrics
この一人の音楽家を語るには、まだまだ時間が足りない。だが私はこの後にもう一つ用事を抱えているので、そろそろ執筆をお開きにしたい。
この記事の最後に記事タイトルの曲『Nombrar es imposible』のMVを掲載しておく。
タイトルを英訳すると「naming is impossible」と翻訳される。「名前を付けるなんて無理」と和訳すれば良いだろうか‥。

“Silvia Pérez Cruz – Nombrar es imposible (Mov.5: Renacimiento)” への1件のフィードバック
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