不意にアルバム『ENIGMATIC SOCIETY』を聴いている。丁度Robert Glasperのニューアルバムを探している最中に、このアルバムの沼にハマったような形に‥。
そう言えば昔吉祥寺に足げく通ったタイ料理店で、いつ行ってもエキセントリックな音楽が掛かっていたことを思い出した。
どこかアバンギャルドR & Bとでも言うような店長独自の選曲で、カセットに収められたプテイリストのようなセレクトが好きだった。
このアルバム『ENIGMATIC SOCIETY』が丁度それに似ていて、眩くアジアンテイストな記憶が蘇る。
元々ブラックコンテンポラリーは言語上の理由で(私が大の英語嫌いだったこと)敬遠していたが、1997年に野暮用でL.A.に遠征に行った時から急激に好きになった。
当時下宿先でお世話になった同居人が大のブラックコンテンポラリー好きのイギリス人で、彼の車にガチャガチャと積んであるカセットテープの大半がいわゆるブラコンだったのだ。
そのラインナップに触れている内に気付くと私は、ブラックコンテンポラリーの洗礼を受けてしまっていた‥。

少し話が脱線するが、昭和の後期辺りから『ジャングルビート』と言う、密林系のリズム体が大流行した。日本国内でもダンスルーム等に行けばレゲェとセットで、このジャングルビート・テクノがよく掛かっていた。
国内で流行ったジャングルビート系の一つに、小室哲哉とダウンタウンの浜田雅功が組んで1995年頃にリリースした『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~』が大ヒット & ロングヒットを飛ばしていた。
リズム的にはこの曲『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~』はハイブリッドになっており、レゲェ+ジャングルビートの複合体でリズム体が完成していると言った方が良いだろう。
『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~』がロングヒットを飛ばしていた1990年中期から後期頃の頃の私は、ジャングルビートよりもサルサやメレンゲ、タンゴなんかにどハマりしており、今何が流行っているのか‥なんてことは余り考えずに、渋谷はHMV辺りにほぼ丸一日しけ込んで端から端までそのシーズンの新譜を聴き漁っていた。
余りアーティストの個人名等に囚われることなく兎に角色んな世界の音楽を片っ端から聴いていた頃なので、いつ、誰が何をリリースしたか‥ と言われると即答出来ないが。
最近になってRobert Glasperの音楽に再会したのはYouTubeの悪戯のお陰とも言えるが、その中でもこの曲『Let It Ride (Lyric Video) ft. Norah Jones』には珍しく惚れ込んで何度も何度も聴いている。
YouTubeでRobert Glasperを聴いていると、何故か決まって『E Preciso Perdoar』 – Ryuichi Sakamoto / Cesária Évora / Caetano Veloso がサイドバーに出現する。
恐らく上に触れたRobert Glasperの作品とリリース時期がかなり近いので、アルゴリズムが反応するのかもしれない。
両方の楽曲を聴き比べると確かに何かしら、時代の匂いを強く感じてならない。
時代が持つ香りとでも言うのか、無駄にカラフルなネオンサインが両楽曲の背後から立ち上って来るから不思議だ。
1990年代中期から後期は確かに、私の前職も盛り上がっていた頃だ。昼夜を問わずに仕事に追われ、断っても断っても後から後から仕事が湧いて出て来るような、良くも悪くもそんな時代だった。
ミュージシャンが猫も杓子も横柄な態度で居ても仕事を失うこともなく、多くの演奏家や編曲家たちが懐を潤わせた好景気の最後の一瞬だったようにも思う。
あの頃通い潰したあのタイ料理店は今も経営スタイルを変えて吉祥寺のほぼ同じ場所に存在するようだが、かれこれ2005年頃を最後に足を運んで居ない。
当時は働いても働いても貧乏だった私も時を経て経済状況が一変し、それにともない体力的かつ健康状態も激変した。以前よりも食が細くなった分、良質で内容の良い食事を少量摂る食生活にシフトした。
変わらないのは音楽の聴き方、音楽への貪欲さだけかもしれない。それだけはきっと終生変わることが無いだろう。とは言えかつて音楽を大音量で長時間聴き過ぎたことが原因で二度難聴を発症していることもあり、最近は2時間以上音楽を聴く時は間に休憩を挟んだり、ヘッドホンの音量をうんと控え目にして聴く等、自身のケアを何より優先している。
2023年の夏至を過ぎ、今日から再び昼夜のバランスが変わって行く。
過ぎ行く時を惜しむのは老化のせいではない。このご時世、色々な理由で多くの知人が体調不良を訴えており、いつ何が起きるか分からなくなって来た。
今日会える人には今日会っておかないと、次いつか必ず会えるとは限らない。
この数年活動を全く止めてしまったミュージシャンも複数居るが、彼等が今どうしているのかについても殆ど分からないことが増えて来た。
それまで更新頻度が多かったFacebookやTwitter等の発信が、2020年の秋を最後に止まったまま‥ と言う音楽家も多数居る。
懐かしさとかなしみと後悔、その隙間をぬうように音楽を聴くことが増えた。
今日は少し悲しく、ロンリーな気分だ。
誰かを失った訳ではない、‥今のところは。そんな感じの、良くない胸騒ぎが続いている。
そんな今の気分に相応しいアルバムを、今夜はしんしんと聴いている。

“アルバム “ENIGMATIC SOCIETY” を聴きながら” への1件のフィードバック
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