蘇る岡田有希子 – Yukiko Okada – Summer Beach (Night Tempo Showa Groove Mix)

「岡田有希子」を検索すると、以下のようにWikipediaに書かれてある。

岡田 有希子(おかだ ゆきこ、1967年〈昭和42年〉8月22日 – 1986年〈昭和61年〉4月8日)は、日本のアイドル歌手である。本名は佐藤 佳代(さとう かよ)。
Wikipedia より


岡田有希子はたった19年の命を、駆け抜けるように生きてこの世を去った。

あの日のことを私は、今でも忘れることが出来ない。
丁度レコード会社へのデモテープの持ち込みを済ませて急いで母校の学生ホールに戻った、その直後に学生ホール中に彼女の訃報が駆け巡った。
さっきまでとても近くを歩いて、2~3社のレコード会社のディレクターたちと歓談し、大学の午後の授業に間に合うように京王線の急行と普通電車を乗り継いで階段を駆け上がって来たところだった。

記憶では前々日辺りに、彼女のニューシングル曲を某TV局の歌番組で視ていた時、妙な胸騒ぎがしたことを覚えている。
当時未だ私の弟も生きており(享年47才で逝去)、TVを視ていた彼が放った異様な一言を私は今でも忘れない。

確かに重いステップ、かなしげに目を伏せる表情は、それまでに彼女が一度も見せたことのないものだったから‥。
 


丁度この作品(くちびるNetwork)の作詞を担当した松田聖子は、数年前に愛娘を失ったばかり。
あの華やかさとは裏腹に、松田聖子の周辺には当時から陰鬱な空気や想像し得ない出来事や噂が、狂った花びらが宙を舞うように飛び交っていた。

美しい人の死は、概ね真実を遠ざける。
生前の彼女たちの華やかさだけが歴史に留まり続け、真相はいつも藪の中に置き去りにされたまま。それらはひっそりと、芸能界の片隅に積もって行く。

岡田有希子と言えばルックルや歌よりも、彼女の描く絵画の世界がさらに彼女を眩しく引き立てたものだった。
多才な彼女がこの世を去るにはきっと、それなりの理由と動機があったに違いない。その多くを知る人と言われる峰岸 徹(俳優)も、2008年にこの世を去った。

そんな中、韓国のDJ Night Tempo が岡田有希子の『Summer Beach』のリミックス版をリリースした。

日本人とはやや、生死観の異なるお隣の国のサウンドメーカーだから、これは出来ることなのだろう。何事もなかったように、普通の、ありふれたシティーポップの中の一曲を軽やかに拾い上げるようにして、少しビートの重いミックスが施されたSummer Beach (Night Tempo Showa Groove Mix)が再び、岡田有希子の精霊と共にこの地球の大地を踏んだ。
 

Summer Beach(原曲)
作詞・作曲:尾崎亜美 編曲:松任谷正隆


こうしてリミックス版が蘇ると、逆に岡田有希子のヴォーカルの上手さがよく分かる。
子音が強すぎないのに正確なリズムアタック、発音が美しく正確な日本語の発声の中から、彼女の持つ古風な性格がじんわりと滲み出て来る。
抑揚を最小限に抑え込んだ、かと言ってけっして不愛想ではなく地味で可憐なボーカルは完璧なまでに個性を脱ぎ捨てており、10代にして既に普遍的な歌手の域へと到達している。

さらに、如何にも「昭和のアイドル」を地で走り込んでいる最中の岡田有希子を、尾崎亜美のつかみどころのないメロディーと歌詞がオフホワイトのレースのように包み込んで行く。

丁度時同じくして、当時のサン・ミュージックの社長 相澤 正久 氏とは幸運にも私は二度お目通りが叶ったが、松田聖子の独立問題がそろそろ業界で噂になり始めた頃だっただけに、相澤氏の岡田有希子に対する熱の高まりを部外者の私でさえもつぶさに感じたものだった。
 

 
最近でこそアイドルの恋愛に対する注目度は、やや生温かいものに変化しているものの、未だ「アイドルの恋愛禁止条例」はそれが当たり前のこととして、多くのアイドルフリークの中では棘のように尖がったまま健在だ。
昭和のアイドルならばそれはなおさらのこと、「アイドルの恋愛禁止条例」は当時の若い表現者たちの人生のみならずメンタルまでもがんじがらめに縛り上げて行ったに違いない。

岡田有希子さんの死因の裏には、色々な噂や出来事が暗躍しているが、それはもはや時効を迎えたも同然だ。
今も未だ生き残っている関係者やその周辺の人たちでさえ真相を口ごもっているには、歴とした理由がある。‥これ以上はもう何も申し上げられない。
 

 
この記事の最後に「くちびるNetwork」のYouTube版を貼ろうかどうしようか迷ったのだが、如何せん楽曲が余り好くない。
なので岡田有希子 with Night Tempo のもう一曲のリミックス、ファースト・デイト (Night Tempo Showa Groove Mix)を貼っておきたい。

もう直ぐ彼女の命日がやって来る。
春風のその彼方から、彼女がもう一度生まれ変わって来る日を待ちながらこれから何度桜の花が咲き乱れ、散って行くのだろうか。

『ファースト・デイト』 作詞/ 作曲: 竹内まりや