美しき共演 – 大貫妙子 with 坂本龍一

今年の3月から長引いていた風邪と同時に免疫力が落ちたのか、今日の今日まで左足の親指の爪付近の化膿と炎症、痛みに悩まされて来た。ずっと整形外科に通院していたが、それも今日で一段落。
未だ完治していない状況ながら状態が視えて来たので、一旦経過観察に切り替えることになった。急ぎの手術も出来ないわけではないが、取り急ぎその必要はなさそうだと言う医師の見立てもあり、病院や手術嫌いな私は一も二もなく経過観察を決めた。
 

心にもゆとりが出来たのか、大好きな大貫妙子さんのLiveを片っ端から捲って視聴している。
ずっと気になっていた『UTAU』シリーズの一曲、『大貫妙子&坂本龍一 / a life』がYouTubeのツリーに上がって来たので、じっと耳を澄まして聴いている。
今はもうこの世には居ない坂本龍一がバックを務めるこのシリーズだが、やはり大貫妙子さんとの相性はベストだと思う。
 

 
以前何かのインタビューで大貫さんが、教授のピアノについて面白いコメントを出していた。
教授は段々とテンポダウンして行くタイプらしい。それが教授らしさであり、妙子さんはそんな教授のピアノにむしろ声と鼓動を合わせながら歌って行くらしいと言う彼女のコメントの中に私は、大貫妙子さんの坂本龍一氏に対する深い深い愛を感じずには居られなかった。
 

実は二人の共演アルバム『UTAU』を私は、全編聴いていない。何となく、未だ聴けない心境なのだ。だがあらためて『a life』だけを取り出して、Live動画と比較するように聴いている。
レコーディング作品の方がヴォーカルのミックスが乾いているので、妙に湿り気のあるピアノの音色の方が飛び込んで来るのが不思議だ。死者の力なのか、それとも単純にミックスの違和感がそうさせるのかは定かではないが、あの世とこの世を繋ぐような音楽に聴こえて来てとても切ない。
 

 
丁度Spotifyを開いていたので、アルバム『UTAU』から『Flower』を捲ってみると、余りに美しい歌詞が私の胸を激しく叩いた。
 

夜露に濡れ その葉をたたむ
幼い頃の 姿で眠る
 
花は目覚め 月を仰ぐ
名はネムノキ 夏の夜の
 
満ちては欠けてゆく
星霜の果て 
なくしたのだろうか
ソロモンの指輪を
 
光と闇がつくるモザイク
 
忘れられた 部屋の片隅
太陽さえも とどかぬまま
 
私は光に からだを向ける
つつまれながら 渇いてゆく
 
あなたのその窓で
かぐわしく香る
優しいその指が
触れてくれる日を待ち
 
恋しいエデンを夢みながら

https://www.uta-net.com/song/200350/

 
ゆっくりと落ち着いた速度で進んで行く音楽が、無限の時を刻む。この一曲が永遠に続いて行くような、気の遠さすら感じながら。‥
たった5分10秒に刻まれた二人の音楽に、私はいつしか飲み込まれていた。
  

 
同曲のLiveバージョンを遂に見つけることが出来ず、残念無念ではあるが、すべては泡沫。翌朝の露の中に消えて行く運命なのかもしれない‥。
因みに『大貫妙子&坂本龍一 / a life』が収録されているDVD『UTAU』は2011年11月9日にリリースされているので、未だ坂本龍一が闘病に入る前の収録だと思われる。それを思うと、何とも苦しい‥。
 

引き続き『大貫妙子 – 都会 @ EPOCHS 2023』を視聴して、このまま余韻に浸りたい心境である。
 

 
本記事の最後に、今日私の胸を激しく震わせた坂本龍一 & 大貫妙子の共演動画『a life』を貼っておきたい。(お二人に心からのリスペクトを込めて‥。)
 

 

 

ディディエ・メラへのお仕事依頼は、info@didier-merah.jp 迄お寄せ下さい。
仕事内容はラジオ番組等の「選曲」を始め、音楽評論、コラムやライナーノートの執筆等多岐に渡ります。
尚、飲食店舗用のプレイリストの作成にも応じます。作成価格に関しましては、メンテナンス等を含み月額制とさせて頂きます。
 
各ご相談は上記メールアドレス迄お寄せ下さい。
 
『X』のメインアカウントが凍結された為、現在稼働中のSNSは、以下になります 。
 Threads: https://www.threads.com/@didiermerah
 Facebook: https://www.facebook.com/didier.merah.2019

“Best of 大貫妙子” Open!

突然ですが思うところがあり、大貫妙子さんのMyベスト・プレイリストを作りました。
私の心情やこのプレイリストを作る経緯については、ここでは省略します。内情をご存じの方には、きっと伝わると思うので。
 

 
中でもM-5: 突然の贈りもの – 2023 東京 LIVE』で一度グッとこみ上げるものがあり、M-15: 『新しいシャツ -2023 東京 LIVE』で追い打ちをかけられます。
 


絹糸をあたためるようなフェビアン・レザ・パネのピアノが、妙子さんの心情の内側を少しずつ紐解いて行くようで、聴いている私までがドキドキ (ハラハラ) して来ます。
 
記事の最後に、先ほど作った (未だ楽曲を足して行くかもしれません) ばかりのプレイリストのリンクを貼っておきます。
 

エッセイ “天空の壁” (普遍性の定義)

この一ヶ月間色々周辺が賑やかだったが、その賑やかさの中に一抹の虚しさを感じていたことは事実だった。
私には予知能力があるので、大概事前に未来が読める。だとしても他の人たちがそうではない以上、時に歩調を相手に合わせなければならないことが度々起きる。
 
私が歩幅を相手に合わせた時は、余り良い結果に結びつかない。今までもそうだったし、今回も同様の結果に終わった。
  
良い音楽は本物の音楽。私が思う「本物」とは、無から創作する人や作品を意味する。
一人のアーティスト、一個のグループの未来を託されることは重責が大きいので、極力私は「売り物は作っていません。」と言い続けている。
だがなまじ私が「売れている人」の背後に立っていることもある為に、相手の方がどうしても私を誤解するようだ。今回もそうだった。
 
私は自身の内面の引き出しを増やしたい為に、多くの民族音楽からアッパーテクノ(勿論クラシック音楽を始め)まで聴き倒しているだけで、私自身がDJみたいなことがしたいわけではない。だが、相手が誤解するしその勢いでマウントまで仕掛けて来るのだからたまったものじゃない(笑)。
 


昨日は久々に Tribute to Taeko Onuki (2枚組)” を聴いた。
  
なんと言っても冒頭の【『都会』- 岡村靖幸, 坂本龍一】の、ヴォーカルの弾け感が良い。
その勢いでザ~っと2枚目も飛ばし聴きしているが、特にDisk 2に良いヴォーカルが集まっている印象が強かった。
けっして好きな歌手ではないが、Disk 2 – M1 “突然の贈り物” を歌っている竹内まりやの表現が朴訥である意味投げ遣りで、私は好きだった。
 
同じDisk2 – M6 “夏に恋する女たち” を担当した中谷美紀の、ある種の棒読み歌唱も逆にインパクトがあったし、Disk1 – M10 “色彩都市” を何と “松任谷由実 with キャラメル・ママ” が担当しており、そのぶっきら棒な歌い方がかえって楽曲をシンプルに際立たせているように感じた。
 
このCDには他にも奥田民生や薬師丸ひろ子、EPOやKIRINJI、高橋幸宏等が大貫妙子の作品のカバーに取り組んでいるが、そのメンバーは所謂個性的な歌い方をする歌手陣で彼等の個性がノイズになって楽曲のメロディーラインの根幹をかき回してしまい、音楽でも日本語でもない別ものになってしまった感が拭えない。
私は個人的には好きではなかったが‥。
 


編曲で最も新しさを感じたのは、KIRINJIが担当した Disk 1 – M4 “黒のクレール” だった。
フランス音楽のテイストを持つ大貫妙子の原曲のテイストを、再解釈した新たなフランス音楽へと進化させたような印象が後を引く。ある意味シャンソン的で、その狭間にファドやフォルクローレ或いは讃美歌等の隠し味が冴え渡っていた。
田村玄一氏のスティール・パンが楽曲のもの悲しさを深め、そこはかとなくアンリ・サルヴァドールの香りが漂う不思議な仕上がりになっていた。
 

良い音楽、良い表現は常にシンプルで、個性の壁を突き抜けた先の「普遍性」に到達する。
個性の壁を突き抜けられない凡庸な個性は、時を越えることに必ず失敗する。勿論目先の目新しさだけを我が儘に追及しただけの作品も同様に、時代の壁の内側で悶絶しながらその一生を終えて行く。
 
私が芸術家 Didier Merah として追及しているものは、個性の先の普遍性である。逆に私が「売り物」に関与する時は、その一つ手前の個性の壁の上限を目指す。
 
先日の会合で私が出したNGの意味を、先方はどう捉えているか‥ なんてことはもうどうでも良い。
私は上の上の、その先の上を既に走っている。それはもしかすると、普通の人間の目には映らない「上」かもしれないが、私にはそれを操ることが出来ると確信している。
 
その確信を形にすることが、私の次のミッションかもしれない。
その手法が果たして音楽作品なのか、それともそれ以外の何かなのかは未だ分からないが、うっすらとその輪郭だけは天空の壁の向こう側に透けて見えている。