アルバム “SHE WAS THE SEA” は全曲がとても素直な楽曲で構成されている。所々坂本龍一の影を感じさせながらも、水面下では足をバタつかせながらサカモトの影から必死に離脱しようとする、声にならない声がリスナーに届いて好感が持てた。 その後のアルバムは正直、殆ど印象に残っていない。そして今回の新譜 “GLASS TOMORROW“ で私は彼の音楽と再会するが、楽曲の随所にペンライトを右に左に振るような幼稚な音楽性が顔を出すので、一曲を通して音楽に集中出来なくなるのが難点だ。
私が大好きだったのは、あのStingとのコラボの “La Belle Dame Sans Regrets” を悲しげに吹いていた頃のクリス・ボッティだった。 リリース時期を調べてみたら、2004年だ。つまり今日から遡ること19年前のクリスが、私の中では最高の音色を出しているように思う。ざっと計算するとクリス・ボッティが41歳の時の音が、程好く尖がっていて程好く花びらが散り始めたような、そんな印象が強い。
このアルバム『The Song Is You』の冒頭の作品『Retrato em Branco e Preto』で一瞬だけ瞬殺された私でしたが、2曲目辺りから胃もたれを誘発せんばかりのムズいアドリブに苛々しながらも、やはりイタリアものに弱い私は結局ズルズルと最後まで後ろ髪を引かれながら一先ずアルバムを完走しました(笑)。
そういう正統派のジャズが日本には殆ど見られなかったことで、恐らく私のようなジャズ嫌いが多く現れたのではなかろうかとさえ思われる。 『ジャズ=煙草と夜と喧噪と迷いと葛藤が生み出すアンダーグラウンドな音楽』‥ 等とは思いたくないのだが、どうしてもそのようなイメージが付き纏わずにはいられない大衆音楽のいちジャンルと言う歪んだ価値観は、彼等 Paolo Fresu, Richard Galliano, Jan Lundgren の音楽の前ではかなぐり捨てなければならない。
基本的に「音楽」に「スピリチュアル」をくっつけて活動する人に対しては私は懐疑的であり否定的だが、Kamalに関しては彼の持つ潜在的なスピリチュアルの力を信じるに至った。 彼の音楽がそれを物語っており、あえてここでは分かりやすく「スピリチュアルな人」を Kamal と言うアーティストをリンクさせて記載してみたが、彼の作品に「スピリチュアル」の文字が仮に無かったとしても十分に、彼の音楽からは尽きることのないスピリチュアルを感じ取ることが出来る。