『Eternal Pain vol.1』 より続く。
4. 歯のひび
2018年9月23日、無事にアルバム『Wa Jazz』がリリースの時を迎えたが私の体もメンタルも最早ボロボロで、私は暫くの期間SNSに殆ど顔を出せなくなった。
勿論「世にも不思議な話」はきっと誰にも受け入れられないだろうと分かっていたし、そうと分かって誰かに訴えかけたい‥ などと言う気も失せ、むしろ話しても信じて貰えないことによる私の精神的なダメージの方を軽減したいと言う思いの方が勝っていた。
感受性の鋭いファン数人と時々LINE等でチャットをする他は、夫以外の私は誰とも話さなくなった。この夏、私の身に起きたことを話すには、それらは余りに現実的な内容からはかけ離れていると思った。
だからと言って「普通の人間」の仮面をずっとかぶり続けて人と関われる程、今の私は元気でもなければ気迫も失せ、先ずは遠い星からもたらされた呪詛の傷を治療することに注力しなければならなかった。
文字通り、私は本当に死にかけたのかもしれない。そこで私が尽きることで得をする人がいた‥ と考えると、色々な不可解なことの辻褄が合って来る。
勿論私は生き延びると決めて「Didier Merah」として二度目の人生のスイッチを押したのだから、魂や体が瀕死の状態に陥ったとしてもただでは起きないと10年前のあの時決めたのだ。
そんなこんなで時間だけが過ぎ、2018年10月28日の歯の定期検診日を迎えた。
ずっと奥歯が痛み腫れたり引いたりしながら、刻々と痛みだけが増して行く感じ。先週一度救急でクリニックに駆け込んだ時は私もドクターも気づかなかったこと、それは「左右両方の下の奥歯が根本で折れていたこと」。
痛みが引かないと訴える私の話をドクターが疑問に思い、急遽レントゲンを撮影することになった。
歯茎の腫れ自体は少し引いていたので私も「そんなことになっている」とは思いもせず、レントゲン撮影室から出てドクターの話を聞こうと…。するとドクターがじっと腕組みをして、写真の前でフリーズしているのでどうしたのかと思い話を聞くと、「相方の無い歯は普通噛みしめることが出来ないので折れることもないのだけど、折れている。」と言い、即座にその状況がドクターも私も掴めずに暫く目を見合わせて話し込んでしまった。
数日前に知人から入れ歯ってどんな感じか… と私が尋ねた時の話を思い出す前に、ドクターの脳内に「入れ歯」の文字がテロップのように浮かび上がった(笑)。
「もしかして… 入れ歯の可能性もありますか?」と質問すると、「いえいえそんな、まぁ僕に治せないものはないですから、ゆっくり考えます。」とドクターの(いつもよりトーンの低い)返事が返って来た。
この夏私は、合計三カ所の骨を折ったことになる。しかもトドメは2本の両奥歯だった。
色々可能性を考えてみたが、やはり思い付くことは一つ。8月10日のあの、遠い星から機械的に私にもたらされた呪詛の時以外、奥歯の根っこの骨だけが折れるなんてことは考えられなかった。勿論夫も同じ考えだった。
5. 命懸けの音楽活動
数日前に、ジャーナリストの安田純平さんが無事に帰国した。私はそのことがとても嬉しく、本当に好かったと胸を撫で下ろしていたが、ネットは批判的な声の側を大きな音量で拡散していた。
なんて心無いことを平然と言う人たちがこの日本には増えてしまったのだろう‥と、胃袋の奥からものが戻って来そうな気分の悪いニュースが立て続けにTVから流れて来る。
危険を百も承知で、それでも為さなければならない仕事がある。そしてそれはある意味、適任者がそれを行わなければならない。
ジャーナリストは苦しんでいる人々の現状を伝える為に戦場に出向き、そのリアルな映像をSNSを経由して世界に発信したり、自らのことばで自己発信したりする。
そして同様に音楽家の中にも、自分の人気や知名度や富・金銭を度外視して、今全く伝わっていない物事(時にはシュールな内容も含め)を音楽の中に封印して発信して行く、それに適した人が存在すると私は思っている。
勿論リスクがとても高く、私の場合はまだノーリターン・ハイリスクに近い状況が続いているが、それでもやらなければならない仕事ならば私は体を張ってそれを引き受けるだろう、きっとこれからも。
※2記事に跨る長文を最後までお読み頂き、誠に有難う御座います。心から感謝を申し上げます。